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覇者デルタの脅威

更新日:2021年7月28日


6/6号で警告したとおり、東京はもちろん、東京除く全国平均でも新規感染者数は増加に転じた。図6~7において交差点が確定したこの機会に、閾値の黄線を描き直してある。因みにR(実効再生産数)が1を上回ったらしいタイミング(破線位置)は、東京が6月2日頃、全国が6月9日頃であり、緊急事態宣言の解除の遙か前である。世論調査では「解除が早すぎた」という意見が今回も多いが、実際は解除する前から感染は増えていたわけである。緊急事態宣言の実質的な有効期間が、今や短いことを知る必要がある。


A-Bの段差が生じた原因は人流の「質的変化」と考えるほかなく、6/6号で詳しく書いたようにアルコール提供規制の導入が一つの有力なパラメータではないかと思う。ただGW後しばらくすると、現場ではなし崩し的にアルコール提供が再開されてきたことや、デルタ種が拡散してきたことによって、閾値(黄線)は再び低下してきたようで、緊急事態宣言解除前に赤線と黄線が交差することになったと推定される。緊急事態宣言解除後は赤線が更に上昇して状況は一段と厳しくなっているが、それが青線に表れるのはこれからである。

デルタ種はインドでは沈静化、 主にイギリス(欧州)で跋扈

WHOは5月31日に何百というコロナ変異種の中から、特に懸念(Variant of Concern)・注視(Variant of Interest)すべきものを選んでギリシャ文字をつけた。国名で呼ぶと、不要な誤解や差別を生むからである。VOC 4種、VOI 7種であるが、VOCを整理すると以下のようになる。コードはPANGO形式、括弧内は旧称、日付はVOCに指定された日付である。


  • アルファ B.1.1.7 (英国種) 2020/12/18

  • ベータ B.1.351 (南アフリカ種) 2020/12/18

  • ガンマ P.1 (ブラジル種) 2021/1/11

  • デルタ B.1.617.2 (インド種) 2021/5/11


ここで注目して頂きたいのはデルタのコード末尾が.2となっていることである。筆者がインド種を評価したのは4/22号であるが、その時点ではインド種のコードはB.1.617であり、そのタンパク質変異はL452R, E484Q, D614Gとされていた。それを元に、筆者は感染力が高い可能性はあるが、ワクチンは恐らく有効であると述べたわけである(正しかった)。


しかし、現在デルタとされているのはそれが枝分かれしたものの1つであり、タンパク質変異もかなり異なる。特にデルタ(末尾.2)は将来分類変更される可能性があるほど他と異なっており、E484Qがなく、代わりにメキシコ種と同じT478Kを持っている、欠損(del)があるなど、性質も隔たっていると考えられる。そしてVOC(懸念種)なのはこの末尾.2だけなのである。オリジナルの末尾.1はVOI(注視種)でカッパというコードが与えられている。末尾.3は時間が経過した割に非常に少ないので恐らく感染性が低い。


B.1.617.1 (T95I), G142D, E154K, L452R, E484Q, D614G, P681R, Q1071H

B.1.617.2 T19R, (G142D), 156del, 157del, R158G, L452R, T478K, D614G, P681R, D950N

B.1.617.3 T19R, G142D, L452R, E484Q, D614G, P681R, D950N


日本ではこうした経緯はすっ飛ばして、ざっくり「インド株(デルタ株)」などと併記されているが、図1~2が示しているように、カッパは2~4月にかけてインドで猛威を振るったが沈静化。デルタは入れ替わりにインドで流行し、カッパに倍する感染者数を得たものの、沈静後は主に欧州で猛威を振るっている。欧州の方がシークエンスを取る能力が高いので、山の高さは感染件数と比例しないが、少なくともインドではかなり沈静化しており、もはやインド株と呼ぶのは誤解を生むだけだ(インド選手への偏見など)。

スーパー変異種デルタ

と言うことで4/22号での筆者のインド種の記述は、今日的に言えばカッパ種の話であり、デルタ種については一から考え直さなくてはならない。問題はデルタに特異的なT478Kであり、これはカッパのE484Qと位置的には近く、ほぼスパイクの先端(角)にある。もちろんスパイクに角は複数あるが、この角は細胞に侵入する入口となるACE2との接点になる角である。これと凹部のL452Rの組み合わせが、デルタのACE2との結合性を特別に高めている可能性はある。また、最近はデルタ・プラスとかネパール型とか呼ばれるAY.1、AY.2型も問題になっている。これはベータに特徴的なK417N変異が、デルタに加わったもので、デルタに付随してVOCに指定されているが、流行動向を見る限りデルタより恐らく感染性は低い。メディアが使う「インド株」と言うのはかくも曖昧であり、カッパ、デルタ、デルタ・プラスのどれを指すのかで意味がまったく違ってくるわけだ。


ともかく各地で非常な速さで、一時の覇者アルファからデルタへの置き換えが進んでいる。もちろんこれはアルファを大きく凌ぐ感染力を有していることの証拠である。図3は日本国内のシークエンス結果の推移だが、直近のぶれを除外すると5月中旬からアルファ(オレンジ)とデルタ(緑)のバランスが入れ替わってきている。アルファは早晩駆逐される運命にあると見て良い。目下感染者急増が問題になっているインドネシアでは、アルファを上回る感染力を持つインドネシア種(B.1.466.2)がかねがね問題になっていたが、5月の下旬からの1ヶ月でアルファ共々あっけなく駆逐され、今ではほぼ100%のシークエンスがデルタになっている。アメリカの新規感染者数も増加に転じたが、早くもその半分以上がデルタになり、アルファやその前のイオタ(アメリカ種、VOI)は急速に占有力を失っている。その勢いは日々見ていてひたすら恐ろしい。


なお、図3にB.1.1.214(赤線)という見慣れない変異種が高い山を作っていることを不思議に思う人がいるだろう。これは当の日本人が最も知らない(知らされてもいない)「日本種」である。これまでで最も山が高かった第3波は、8割がこの日本種によるものだったが、同じく日本種であるR.1(青線)に負けて置き換わっていった。ただ、その直後に今度はアルファがR.1を打ち負かす。日本種は韓国やオーストラリアなど周辺国に少しだけ進出したが、幸いそこまで感染力が強くないので同様に駆逐された。だが、もしたまたまデルタのように強かったら、「日本種」として世界から疎まれたことだろう。海外の日本食レストランには人が寄りつかなくなり、アジア系と見ればあからさまに道を避けられたり、石を投げられたりしたかも知れない。このように突然変異はユビキタスであり、呼ばれる側の立場になれば、インド種とかブラジル種とかNHKが堂々と呼んでいるのが如何に問題か、分かろうというものである。


「デルタに今のワクチンは効くのですか」と言った世界中の問い合わせに対する様々なドクターの回答を見ていると、「効かないわけではありません」、「それでも打つことを奨めます」と言う感じだ。英国公衆衛生庁などの公的機関の複数の暫定調査では既存mRNAワクチンでの有効性は2回接種後2週間で79~88%の範囲に収まっている。対アルファで10%くらい効力が落ちるわけだが、この10%は大きい。仮にアルファなら全人口の7割接種で集団免疫に到達する国の場合、デルタでは単純に8割接種が必要になる計算(0.7×0.96÷0.84)だが、これに基本再生産数の上昇が加わるので目標はもっと高くなる。8割は強制力なしでは難しい水準なので、デルタに適合させたmRNAワクチンのブースター・ショットを追加していく方法もある。ただ、変異はデルタが最後ではないはずなので、1/26号で書いた「永遠の追っかけゲーム」に疲れ果て、財政も逼迫し、4/15号で述べた「インフルエンザ的結末」に向かう可能性が高いという筆者の見方に変わりはない。

イスラエルとイギリス

ワクチン先進国たるイスラエルも、イギリスも、目下の急な感染増でてんやわんやである(図4~5)。ただ、これはデルタの効果だけではなく、人々が自由になりすぎたこと(赤線の上昇)にも大きな原因がある。海外でもきちんとした記者が書いた記事では、デルタに関してpartly attibuted、partially responsibleと書いて、すべてを変異種のせいにはしていない。イスラエルではマスク着用が再び義務づけられたし、イギリスでは再び営業規制が強化された。アメリカでもワクチン接種者は外して良いとしていたマスクを、1ヶ月もしないうちにCDCが再び着用するよう指導し直した。これらのことは、あとはただワクチンを打っていれば解決すると言う5~6月の安易な雰囲気が甘かったことを示している。閾値はまだそこにある。ワクチンで上がり、変異種で下がるとしても、そこにあって超えることは許されない。


イギリスとイスラエルの差はどこから来るのか、と聞かれることがある。国のサイズから何から違うので、一言では答えられないが、2点ほど特異点を挙げておく。まずイギリスは、1回目接種と2回目接種の間の期間を6週間と長くして、1回受けた人の数をまず先に増やす戦略を採った。試算してみると分かるが、これは短い時間で国民の平均免疫度を上げるのに有効な方法である。ところがデルタはここにおいても曲者だった。1回接種だけでは有効性が33.2%と極めて低いのである。デルタに限っては、イギリスの戦略は裏目に出たわけだ。もう一つはガザ紛争である(図5)。これによって人流がだめ押し的に減ったことで、イスラエルの新規感染者数は、一時1日平均で12人まで減少した。そこからの増加なので、100倍になっても1200人で済むのに対し、イギリスで100倍になると1日15万人である。余裕がまったく違うことになるわけだ。今はどちらも10倍程度の段階である。


これからデルタ種主体で考えるなら、ワクチンの1回接種率ではあまり意味がないので、今号から完全接種率のグラフも載せることにした(図8)。日本は1割なのでまだデルタ種には到底歯が立たないはずで、黄線の押し上げ効果もまだわずかしかないと考えるべきだろう。また、先週末から東京の接種が日次発表となったのは歓迎するが、勢いがない(図9)。職域、学域が入ってくるからここから伸びると考えたいが、逆に言えばそれがなかったら早々と失速していたのではないだろうか。オリンピック開催が感染を増やすか、増やさないかを論じる以前に、今の状態でまず問題山積である。

ワクチンは重症者を実際に減らせているのか

かくして感染者数が再び増加する状況に際して、ワクチンはもう一つの効果として重症者(ひいては死者)を減らすので、感染が増えても以前のように気にする必要はないと言う意見が、楽観キャンプから聞こえてくる。確かにワクチンの能書きにはそう書いてあるのだが、実際にそうなのか調べてみた。


とは言え、重症者には各国共通の定義はなく、多くはドクターの判断に基づくものだ。重症者が減るなら、死者も減るはず。あるいは、死者の減らない重症者減には意味がないとのロジックで、7日移動致死率を見るのが簡単で客観的である(図11~13)。イギリスだけは妙に致死率が低いのだが(感染が若者中心と言われている)、イスラエル、アメリカ、ドイツと言った他のワクチン先進国では、特に致死率が減ってはおらず、この病気の平均的致死率である2%前後にある。従って、感染者が増えても重症者が減るから問題はない、と言うのは現時点では確認できない議論である。

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