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イスラエルの状況に驚く


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3/3号「コロナ拾遺18」ではイギリス(図1)を取り上げて、人々の活動レベル(接触レベル)が上昇しても、新規感染者数が減り続ける不思議を説明するのはワクチンしかないことを述べた。

図1~4の仕組みは何度か説明したが、要は国民の活動レベル(赤線)がある閾値(黄線)をまたぐ度に、新規感染者(青線)が減ったり増えたりする関係を示している。閾値を上回った活動状態(≒接触頻度)になれば新規感染は増え、閾値を下回れば新規感染は減る。当然の関係だが、日本の専門家はミクロなクラスターの離合集散とその抑え込みに集中しており(それも大変重要である)、こうしたマクロ的な説明はあまり耳にしない。

図1青線は下げ止まりのようにも見えるが、拡大してみると新規感染者数はまだ少しずつ減り続けている(青線)。一方で、国民の活動レベル(赤線)は2週間前より更に上昇している。問題は閾値(黄線)である。赤線と青線は公表されているデータだが、閾値は誰にも分からない。赤線と青線の関係から、この辺にあるだろうと導き出されるものである。

最低限満たされなくてはならないのは、新規感染者数(青線)が下がっているのなら、国民の活動レベル(赤線)は閾値(黄線)より下にある、と言う関係だ。つまり図1においては前号でも述べたように、赤線に超えられないように黄線を上げていく必要が生じる。今回からそのプロセスが分かるように、黄線を動的に表示することにした。変異種やワクチンによって黄線も変化する以上、もう固定値では表現できない。もちろん、黄線の正確な位置は青線の転換点以外では特定できないので、直線で示したのはおよそのイメージである。結局、変異種によって一度は下がったことが確認された閾値は、ワクチンの普及に伴って上昇し、現在ではほぼ変異種の効果を打ち消したと言えるところまで上がっていると考えられる。

そして接種が続けば黄線は更に上昇していき、理論上は「集団免疫に到達したところで0%」になる。黄線がグラフの目いっぱい上になった状況では、赤線はもはやどこにあっても感染者数が減るわけで、つまりは自粛もマスクも一切不要になった状態だ。もちろん、日本のように世論が遅行的で社会的同調圧力の強い国では、実際にマスクを外せるようになるのはもっと後になりそうだが…

イスラエルの奇跡

現下の機関投資家向けのプレゼンテーションでは、以上の話を冒頭でしている。そうすると、世界で一番接種が進んでいるイスラエルは更に状況が良いのか、と尋ねられることがある。もっともな意見であり、そのために今般新たに作成したのが図2である。今日のハイライトだ。

イギリスと異なるのは、変異種による閾値の低下が起こる前に、青線の低下が始まっていることだ。従って図1に存在するようなグレーの外れケースがない。ただし、1月中旬に青線がプラトーになっていることは、黄線と赤線が接近したことを示唆しているから、黄線も一旦は変異種の効果で下がったと推察される。いずれにしてもこの間青線は下がり続けているから、常に黄線(閾値)は赤線より上にあったことになる。

コロナ前対比マイナス15%の軽自粛でOK

その様子はグラフに示した通りで、イスラエルでは元々の安定閾値であった-30%よりも既に高い活動レベルになっているのに、それでも青線が減っている。つまり想定通りイギリスよりも先を進んでいるわけだ。コロナ前比で-15%と言えば、かなり規制解除された状態であると言え、人々は以前の生活に随分と近づいている感じであろう。

言うまでもないことだが、エコノミストである私がこれ程までこの「閾値グラフ」にこだわってきたのは、不謹慎ながら青線が下がるのを見るためではなく、黄線そして赤線が上がるのを見るためである。それは経済活動への足枷がなくなることを意味するからである。イスラエルのグラフは、まさに望んだとおりにワクチンの効果を示してくれた。

イスラエルの新規感染者数の水準が高止まりしているように見えるため(図2青線あるいは図U)、ワクチンが効いていないかのような風説も耳にする。しかし新規感染者数の絶対レベルは重要ではない。Rが1を切ったこと、つまり青線が減っていれば良いのである。あるペースで減ってさえいれば、遅かれ早かれ青線は0に近づく。つまり確認すべきワクチンの効果というのは、人々の活動(赤線)が上昇しつつも感染(青線)が下がっていることなのだ。

日本は尋常ではないワクチンの遅れ…でも菅さんは

最後は日本だ。残念ながら、前号での予想が当たって、日本では青線がはっきりと上昇を始めてしまった(図3)。今週末からの緊急事態宣言の解除は、まったく妥当ではない。しかし、早く解除しても今解除しても、ワクチンがない以上、結果が悪くなるのは防ぎようがない。青線が上昇に転じたことで、日本の黄線は-29%の位置で赤線とクロスしたことが確定してしまったし、赤線は既に更に先まで上昇している。しかもワクチン接種率がようやく0.35%になった程度の日本では、黄線がイギリスやイスラエルのようにはっきり上昇することは当分ない。それどころか変異種の浸透度が100%ではない以上、黄線はまだ下がると考えるべきである。しばらくは絶望的だ。

昨日時点での主要国の接種率を見てみよう。イスラエル110%、イギリス40%、アメリカ34%、EU平均12%(EUは横並びで打っている)、世界平均5.0%、中国4.5%、アジア平均3.3%、韓国1.3%、アフリカ平均0.56%、そして日本が0.35%である。昨日の総理記者会見で、誰もこのことを詰問しないのは奇異としか言い様がない。クアッド(日米豪印)でインドの接種を支援などと報道しているが、インドの接種率は2.7%で日本より高いのだ。

なお前回同様、ここでの接種率は各国における総ショット数÷総人口である。そのうち2回受けた人、2回必要な人がどれだけいるのかは分からない。もしイスラエルが2回型ワクチンだけで進んでいるのなら、全員が2回受けたとして、本当の接種率は110÷2=55%と言うことになる。世の中ではイスラエルの接種が既に人口の100%に到達したと誤解している人が多いが、そうではない。

最後になったが、以上の論説は将来にわたるワクチンの安全性を保証するものでも、これから現れるかも知れない更なる変異種への効果を保証するものでもない。またシオニスト国家としてのイスラエルを礼賛する気持ちがないことは、前号で書いたとおりだ。あくまで目下の防疫政策としての有効性を確認しただけでである。

【図2の作成についてのメモ書き】イスラエルのGoogle Mobilityは、イギリスと同様に大変ぶれが少なく、日本の時のように苦労することなく作図することができた。また、4つのパラメーターのウェイトはイギリスと同じものを使用したが、そのままですんなり閾値(-30%)が成立することが確認できた。そして、ここもイギリスと同様にパラメーターのウェイトを多少変えても、線形はそれほど変わらず、モデルが安定していることが示唆された。唯一の違いは、青線の左へのずらしが15日も必要だったことである。イスラエルは感染統計の発表が実際に遅く、感染の発覚までに大きなタイムラグが存在するものと想像している。

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