急速なマージンの収縮が進む
- 藻谷 俊介

- 1 日前
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月初はシリコン・サイクルの転換を予期させるような株価の急落に、未来を先取りしたような議論を展開したが、その後は米イラン和平交渉をほぼ決着と見て、景気を再び強気に考える流れが金融市場の中に形成され、一進一退が続いている。
しかし、戦争一般を可逆的な現象(和平に持ち込めば、なかったことになる現象)と捉えるのは、かなり甘い見方であると私は思う。実際の戦争は、短期から長期の様々な影響を残し、なかなか消えることはない。トランプはスイスイと船が通り抜けているようなことを言っているのだが、そもそもMarineTrafficアプリを見ればほとんどのタンカーは海峡の両端で固まったままで動いておらず、中央部を動いているのは2-3隻の地元の船(イラン船籍を含む)にすぎない。開通後は港湾や原油生産設備復旧の問題も残っているし、まして今回は、広く中東問題の根本となってきたイスラエル問題がのしかかる。
日本ではあまり伝わらないイスラエルの国内事情を見ると、戦争を主導してきた与党内の保守強硬派は、軍事的成功に酔った強硬な国内世論を背景にして、我々はアメリカの属国vassalではなく自分たちの好きなように継戦すべきだとネタニヤフに圧力をかけている。もともと連立なくしては成り立たない与党なので、アメリカはネタニヤフ一人を脅しても意味はなく、ネタニヤフも国内選挙で勝てれば良いのであるから両天秤にかけるだけで、アメリカはイスラエルのコントロールを失うぎりぎりのところまで来ていると読む。イスラエルは日本と同じような意味でのアメリカの忠実な属国ではなく、AIPAC(アメリカ・イスラエル公共問題委員会)などを通してアメリカを利用する属国もどきである。そして建国80年が迫り、自前の先進軍事技術でアメリカの力はもう必須ではないと考えるところに差し掛かっている。
4月以降の強気論の本質
ここで改めて戦争開始からひと月もなく始まった景気強気論の中身を考えてみたい。きっかけは3月20日のベッセント発言だったのではないかと私は思う。それは、石油価格の高騰を抑えるため、生々しい戦闘の相手であるにもかかわらず、イラン産原油の流通を認めるという奇妙な内容だった。トランプの太鼓持ちをしつつ、抗するウォール街の御用聞きもしている伝書鳩のベッセントだから、いわゆるTACO(トランプは必ず怯む)の発信源になるのも往々にしてベッセントであり、早くもそこから「アメリカが妥協する形での停戦」への道筋が見えたことになる。
もちろんそれはアメリカ目線に過ぎない。大きいアメリカがすべてを決められる。自分たちが止めれば、イランも止めるだろうと高をくくっていたわけである。実際はそこから交渉が難航した。アメリカの足元を見たイランは、交渉を長引かせ中間選挙に向けてトランプを窮地に追い込むのはもちろん、湾岸周辺諸国の足元の強い反イスラエル世論も味方につけて、イスラエル・レバノン領域での和平と抱き合わせる戦略に出たのである。それでイスラエルが大人しくなっても良し、大人しくならないなら和平の障害としてイスラエルを非難できるからそれも良し、ということで、国際的な外交シアターにおいてイランには失うものがない。イラン目線で見れば、和平は条件次第、いつでも臨戦態勢に戻れるようになっているのだ。
しかも、実は和平だけでは経済はネットロスである。油田や原油精製施設は破壊され、タンカーのコストも保険も上昇し、様々な供給制約がかかってくる。これでは株価も戦争前より本来は上がりようがないはずであった。
ただ、偶然そこへ現れたもう1つの助っ人があった。シリコン・インフレによる半導体業界の突発的な業績改善である。これについては過去何度も述べたとおりである。これは元来のAI神話と補強しあって、もう一段の飛躍シナリオに火を付けた。
つまり、現在の楽観論は、アメリカ目線の和平期待と、シリコン・インフレに支えられていることになる。そしてどちらも頼れるものではない。前者はいわばイスラエル次第だが、イスラエルの国内世論はアメリカに言われて戦争を止めるなど国辱だ、とますます硬直化している。
後者のシリコンの価格上昇(主にメモリー価格)でメリットが有るのは、メモリーなどを作っている韓、米、中、日、台だけである。従って、インド、メキシコ、ドイツ、オーストラリアなどの株価は戦争前高値を抜けないままであり、図Aが示すように、主要17ヶ国世界株価指数はサイクル的にはまったく上に突き抜けてはいないのである。突き抜けないのであれば、むしろそれは悪化を待っているグラフ解釈もできることになる。
1-3月の幸運を分解する
株と債券の違いは、前者に関してはマクロ経済的なシナリオに加えて、現実の「企業業績」という一定の尺度があることである。そして1-3月期には、間違いなくシリコン系企業を中心に値上がりによる特別な利益があった。売価は急上昇したが、原材料の上昇はそれをゆっくり後追いするだけなので、常にギャップ(利益)が広がったのである。
日本企業もそのメリットは確実に得ている。図Bは法人企業統計の売上高、図Cは売上原価、図Dは営業利益である。売上の伸びに原価の伸びは追いつかず、結果として営業利益の線は一度減速していたところから、年率30%程度の勢いですくっと立ち上がっている。これは半導体を含む全産業ベースだが、平均として結構な伸びであり、1-3月期を反映した4-6月期の株価の伸びは正当化できなくはないように思う。つまり1-3月期は事象として幸運だった。そしてこれは日本だけではなく、アメリカの法人企業統計にも同程度の勢いで表れている(図E)。
4-6月は交易条件の悪化、利幅の悪化
しかし4-6月期の業績を反映する7-9月の相場はどうなるだろうか。このまま行くことはなく、厳しいものが待ち構えているように思う。
法人企業統計の1-3月期の幸運を別の角度から表していたものの1つが交易条件だ。図Fは日本の輸出入物価指数の当社季節調整系列である。5月まで更新されている。グラフに書き込んだリアルタイムのインフレ率(年率)は、輸出物価が26.4%と非常に良好な結果を示しているが、残念ながら輸入物価は71.1%とその3倍近い勢いを持ってしまっている。仕入れのインフレが売上のインフレより大きいのだから、利益は悪くなっているはずだ。
同じものが3ヶ月前(1-3月期相当)にはどうだったのか。それを示すのが図Gだが、輸出物価が22.2%と好調だったのに対して、輸入物価は20.2%と若干ながら下回っており、とてもラッキーだったのだ。その1月前になると、輸出物価23.4%に対して輸入物価は14.4%しか伸びておらず、ますます企業には有利だったことが分かる。輸出物価インフレから輸入物価インフレを引いたものを交易条件と呼ぶが、これが大きいほど加工貿易国家である日本のような国には大きな利益が出る。そしてグラフが示す通り、そもそも長期的に見れば輸入物価インフレは輸出物価インフレより大きいのだから、3-4ヶ月前に輸出のほうが大きかったと言うのは幸運以外の何ものでもなかった。それが今は3倍返しされているわけである。
以上は主に輸出(外需サイド)の話になるが、内需で考えても結論は同じになる。図Hは、日本のCPIとPPIのリアルタイム・インフレ率の推移を示した速度計だ。ざっくり言えば、平均的日本企業はPPIで仕入れて、CPIで売っていることになるから、その利益は両線の差に依存する。3月まではCPIとPPIのインフレ率に大きな差がなかったので利益は出し易かったが、ここへ来てPPIインフレの上昇にCPIインフレが大きく引き離されてきた。この差は、どんどんCPIに価格転嫁しない限り、企業が飲まなくてはならなくなる。グラフは5月までだが、1-3月期の幸運は、4-6月期に大きな逆風となって現れることになる。
好業績で何となく強気になって、今頃になって設備投資を増やし始めた日本企業だが(図J)、正直言って3年以上続いた好景気の今頃になって強気になっていることには感覚のズレを感じざるを得ない。そのズレはともかくとしても、眼の前の道に大きな穴(4-6月期)が空いていることには早く気づく必要があるのではないか。




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