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徐々にAI相場の限界が姿を現した

世界の株式相場は、アップダウンするものの、高値を更新することもできずに弱含む状態にある。昨年12月から、韓台日の半導体デバイス在庫率の悪化、実質賃金の低下、交易条件の悪化などのマクロデータの変化から、景気に楽観的すぎる株式市場に釘を刺してきた私も、もはや新たに言うことはなく、後は市場が気づくのを待つだけと言ったところだ。


経済や市況がバブル的になると上昇の自己正当化が進むので、株価にいつもの先行性を期待できなくなる。そもそも近年のパッシブ化した相場は、山っ気や雑多な思惑が交錯した昔と比べて、集団より先に動く先行性を示しにくくなっている印象もある。私は、今回は在庫率という数量ベースの経済統計の方が、むしろ冷静に先を読んでいると思っているのだ。

半導体は取り敢えずは終わった

新たに言うことはない、と書いたが、こまごまとしたデータには景気の転換を示すものが多くなっている。主に数量系のデータである。今回はそんなところを少しずつつまみ食いしてみよう。


まずは、6月末に発表されたばかりの韓国の5月の半導体生産(数量)指数の急減だ(図A)。昨夏既に一度低下していたのだが、その後のメモリー価格急上昇などで息を吹き返していた。しかしここで再び大きく下がったことは、それも終わった可能性を示している。そして、去年も同じことを指摘したが、これほど減産しても在庫率が下がって(改善して)いない(図B)。このことは、もう在庫を悪化させずに生産を伸ばす術がないことを意味しているだろう。図Aだけでは二度あること(上昇)は三度あると思ってしまう人もいるだろうが、図Bも見ることにより、昨年渡された引導がますます重くのしかかっていることを確認することになるのである。そしてこの統計がKOSPIの様相を一変させたことはもちろん、キオクシア株にも引導を渡し得るものであることを示している。


台湾の電子部品デバイスの在庫率も再確認しておく(図C)。見ての通り、ここでも年初に一時的な改善(低下)が見られたが、その後は再び上昇(悪化)に戻っている。メモリー特需は台湾でも終わったと解釈できる。


私は30年来のパソコン自作派なので、アキバのメモリー価格も見ている。半導体アナリストではないので業者間の契約価格までは分からないが、過去もアキバ価格は市場動向を遅滞なく素直に反映してきた。5月の終わり頃から安売り商品が結構出てきて、最初は「特売」扱いだったが、そのうちそれが普通になり、相場になってきた。これもますますメモリーブームの終焉を確実にしていると考えている。


もちろん、まだメモリー価格は暴落しているわけではないので、昨年の同じ月よりは十分に高い。従って、数量が減ってきたとしても、企業の月次売上を前年同月比で見ればまだ強いと錯覚してしまう可能性がある。下がっている株価を「前年同月比でみれば上がってる」と喜ぶ人はいないのだから、もう統計や業績の前年同月(期)比分析からは本気で卒業しなくてはならない。季節調整をかけることで、マクロ経済統計の方が、企業の月次売上を前年同月比で追うよりも変化に先に気づくことができるのだ。企業の月次データなどが入手できるセクター・アナリストの方が、官庁統計ベースのエコノミストより変化に先に気づくというのは、統計を尽く季節調整している私から見ると真実ではない。


ただキオクシアの業績は約2年分しかないので、まだ季節調整がかけられない。

中国の貿易数量の低下

中国経済が足元で一段と良くないことは、6/17号のWeekly Economicsでも強調した。やはり6月末に中国の5月の輸出入物価指数が発表されたので、5月までの輸出入数量指数を計算できるようになったのだが、輸出入ともにますます深く落ち込んでいる(図D)。もちろん価格はインフレなので、輸出入額で見るとまだ伸びている(図E)。しかし、これは一旦値崩れが始まれば、数量が示す悪化を、遅れて急速に反映するようになるだけだ。


図Dはかなり深刻な悪化である。このところ不動産価格に多少落ち着きが見られるようになっているので、世間が中国を見る目はむしろ優しくなってきたと感じるが、そんな時に限って今度はフロー面での統計が悪くなっていると言うのは皮肉だ。また、中国需要の低下は、グローバルな景況感にも大きなネガティブになってくるはずである。

アメリカの国民経済の悪化

建国250周年を迎えたものの、有名ミュージシャンがトランプを嫌がって集まらず、公式式典での大規模なコンサートができなくなったり、公式式典への来場者が少なかったり、折悪しく雷雨になったりして、ギクシャク感が強いなあと思いながら私はニュースを見ていた。


世間では250年を経たアメリカはいつまで大国でいられるのかとか、中国に勝つのか負けるのかとか、と言った20世紀の冷戦思考の抜けない質問が並ぶのだが、私には米中それぞれに今より苦しくなるだろうと言うことしか分からない。その結果として、どっちが勝つのかという問題の重要性も低下することだろう。Weekly Economics 1/18号で述べたように、私はG2を経て究極的にはG0ないしGmanyになっていくしかないと考えている。


話が脱線したが、アメリカの統計はまだまだ良いと思っている人が意外に多いので、そうではないことを5/28付のWeekly Economicsに示した。まずは、そのアップデートとして図Fをご覧にいれよう。


これは実質可処分所得と実質消費支出の推移である。グラフ内の数字は、直近3ヶ月の平均伸び率年率換算値、すなわち私がリアルタイム伸び率と呼んでいる足元の伸び率を年率にしたものだ。5月のレポートでは、青い可処分所得が+0.3%、赤い消費支出が+2.3%だった。まだ実質可処分所得がぎりぎりプラスだったので、アメリカでは賃金の伸びはかつがつ物価上昇率を上回っていたのだ。しかし今回、実質可処分所得の伸びは-2.0%となり、あのアメリカでも賃金の伸びを物価の伸びが上回ってしまった。実質消費支出も減速して1%台になっている。もはや平均的な国民としては250周年を大騒ぎして祝うような気分ではないのだろうと思っている。

アメリカの雇用はまだ伸びているし、失業率も下がっている、と言われる。しかし、雇用はプラスなら幾ら小さくても良いというものではない。以前も述べたように、毎月の雇用の伸びの季節調整値は月を追って低下してきた。3月は21.4万人増、4月は14.8万人増、5月が12.9万人増、そして直近6月は5.7万人増でしかない(好況期の平均は約20万人増)。もう終わりが見えてきた感じなのだ。


失業率の低下も、雇用が増えているからではないことに気づく必要がある。図Gは失業を要因分解したものである。赤線の労働力人口は働きたいと思っている人の数、青線の就業者数は実際に働いている人の数、その差が失業者となる。実際は働いている人の数(青線)は減り始めているのだが、働きたいと思っている人(赤線)の減り方の方が大きいため、差の失業者数が減った。それで足元の失業率が減っているように見えるのだ。こうした中身を見ることなく、計算上の改善で景気は良いと考えているとしたら、(実際は雇用は減っているので)大変な裏切りに合うことになるだろう。

インフレの減速と債券のオルターナティブ・シナリオ

以上考えると、もう株価が上がらなくなっているのは当然とも思える。問題はいつから本格的な下げ相場になるかであるが、今はまだ「強いインフレ」から参加者の頭が切り替わっていない。そのため債券市場に資金が向かう流れがまだなく、循環物色的に他セクターに流れたり、豪州株はじめインド、カナダ、EUと言った代替の株式市場に流れがちである。しかしシリコン主導とは言えグローバルで3年半続いた好景気が終わるのなら、結局は債券市場へ流れ込むしかないはずであり、まだ「利上げ論」も旺盛なところからそこまで頭が切り替わるには、しばらく掛かるのではないかと思うのだ。


ただ、リアルタイムのインフレは上流から弱まってきたので(図H)、上流に近いPPIインフレには程なく減速感が出てくるだろう(図J)。私のインフレに対する立場は微妙で、構造的にはインフレの時代(日本で言えば金利のある時代)を前提としつつも、図Hがそう示す以上は、目先は一旦はテクニカルに弱まると考えている。世界景気の調整は経験的には1年ほどの期間だ。その間は資金が債券に向かうこともありと思っているのである。出遅れた日銀は、船頭としてこの曲がりくねった急流を手際よく下ることができるだろうか。


【為参考】

各国8日終値の世界株価指数の合目表示を図Kに示した。2月と5月を頂点にして6-7月は連続して下がっている。


図Lは、2025-26年の部分で韓国と台湾を除外して作成した世界株価指数。韓国の対世界ウェイトは1.6%、台湾は0.9%と極めて小さいにもかかわらず、両国の株価が突出したので図Kと図Lには大きな違いが出ている。この2ヶ国を除くだけで、図Lの2月ピークアウトの様相は強くなり、AIブームなるものの底力も透けてくる。



 
 
 

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