藻谷 俊介

2月28日5 分

物価の牽引力が弱い

1/26号で、第三次産業活動指数の連続急落を引いて、製造業とサービス業、どちらからも経済の牽引力が見えなくなっていることを憂えた。今号は、そのフォローアップである。

その際に示した図Aは、1ヶ月経って左のようになっている。第三次指数の落ち込みはますます鋭くなり、振り返ってもはやぶれとは呼べない痕跡を残している。製造業の体たらくにも変化はない。これが地震前の12月までの変化であることが、言い逃れを困難にしていることは言うまでもない。

モノの価格もサービス価格もリアルタイムで下がる

昨日発表された1月の全国総合CPIも、既に発表されていた東京都区部でのインフレ急減速の後を忠実に追って、リアルタイムで0.0%まで大きく下がっている(図B)。ただし、ここにはぶれ要因である生鮮食品やエネルギーの下落も含まれる。

そこで総合CPIよりも安定した動きをする、生鮮食品とエネルギーを除くベースで見ると、確かにまだ2%を切ったばかりだが、逆にここでも着実に減速が続いている事を思い知らされる(図C)。

そして、CPIを財とサービスに分けた場合、エネルギーと生鮮食品に引っ張られた財のマイナスが特徴的ではあるものの(図D)、一時は3%を超えていたサービス・インフレが、じりじりと下がってきたことも忘れてはならない(図E)。

そして、前回も述べたとおり、インバウンドの牽引力の低下と地震の影響で、インフレをリードしてきた「宿泊+外食」のインフレ率の低下が続き、1月には年率3%まで低下してきた(図F)。目安となるコロナ前の勢い対比では、1/4になっている。地震の一時的な影響もあるはずなので、目先は多少の反発なら予期できるが、それ以前からの減速の流れは重い。

川上のサービス価格インフレも低下

さて、サービス・インフレが本格化・定着する期待?への証左として、最近になって注目度が上がっていたのが日銀のCSPI(企業向けサービス価格指数)である。1月も前年同月比では勢いを維持しているように見えてしまうが、リアルタイムのインフレ率が示すように実際は落ちている(図G)。

もちろん、ここでも地震の一時的な影響は斟酌するべきだろう。だが、内訳を見ても、リアルタイムで伸びているのは、運賃、その他(諸サービス)、不動産の3つだけで、AI化で期待の集まる情報通信や、広告などの価格はリアルタイムでは低下し始めている。何となくしっくりこないのだ。

改めて株高について

前回、『株高の裏で』というタイトルを付けていたので、ある読者から日本株は下がるべきということなのかと尋ねられてしまった。

金融市場の分析は別府の専門領域で、筆者の場合はむしろ1つの景気指標として株価を見ているに過ぎない。グラフの横軸(時間軸)なら他のサイクル指標との前後関係がまだ論じられるが、縦軸(TOPIX水準)については全く研究していないことは長年の読者ならご承知だろう。

その上で、当社のG17世界景気先行指数が中国抜きで4.6合目、G17世界株価指数もまだ5.0合目という現状では、時間軸的には株価を売るには早いということになるのではないか。つまり世界が上に行く間は、日本もぼろが出にくいと言うことである。

筆者が「株高の裏で」見ているのは、上で何となくしっくりこないと述べたように、通説的な株強気論と経済の実際の中身が合っていないことである。それが合目が上がるにつれてリスクになっていくことを予期しているのである。

補足:第三次産業活動指数・外人旅行の季調について

1/26号では、インバウンド変調の根拠として、第三次産業活動指数の中の「外人旅行」の急落をグラフとして載せた(図H)。その後、そこまでの悪化が本当なのかを巡って、親しい投資家とのやり取りがあり、筆者も改めて季調の妥当性をパラメータを変えながら検討する機会を得た。

結論として第三次産業活動指数の標準的な季節調整パラメータは外人旅行の季調には向かないと言う結論に至った。図Hのように大きくインバウンド活動が低下しているわけではないという結論である。

ここで言う標準的な季節調整パラメータ、と言うのは、日本のカレンダーに基づいた営業日補正、祝日補正、曜日補正、そして消費増税段差の異常値補正などを行うことである。ドメスティックなサービス業一般の季節調整にはこれらが適当なため、筆者も深く考えず当然のこととしてみっちり補正していた。

しかし、調べるにつれ曜日も祝日も消費税もほとんどまったく外人旅行には影響していないことが分かってきた。考えてみれば自分も外国に行くときは、そんなことはお構いなしである。そういう対象に対して無理に曜日などの補正をかけると、ノイズを拾って逆にモデルが大きく不正確になってしまう場合がある。これは、時間をかけてパラメータを変えながら、アウトプットを最適化することで防ぐしかないものだ。

図Hはまさにその失敗例である。インバウンドは「日本」の中に入り込んだ「世界」だ。従って日本固有のパラメータを順に外しつつ、季調をかけ直すと最終的に図Jのようになった(異常値補正は自動とした)。伸び悩んでおり末端は下がっているが、線形としてはまだピークアウト手前のようにも見えなくはない。

もちろん、図Jの通りだとしても、インバウンドの牽引力が衰え、物価を引き上げる力もなくなってきたこと自体は事実であろう。その意味で1/26号の結論は変わらないのだが、少なくとも図Hのような激減はなかったことはお伝えしておきたい。十分に吟味して検証することなく当社も経産省と類似した方法でさっさと季調をかけて、掲載してしまったことをお詫びして修正させて頂く。