藻谷 俊介

2023年10月20日2 分

月例中国統計ウォッチ 9月分

ほとんど季節調整されていない中国の統計を、春節補正の季節調整ベースで並べて観察するのが月例中国統計ウォッチである。先月号では、不動産、設備投資などストック面は底入れ手前ではあるが、そろそろ底が近づいているようにも見えると述べた。実際一部にはその様相もあり、フロー面も含め全体としても悪くない結果だったと言える。

報道されない良さ

9月の鉱工業生産は前月比+0.4%と上げ足した(図1)。図2が示すリアルタイムの増加率は、およそ年率5%前後はあることを示している。ちなみにこれが2017年は6.5%、18年は5.9%、19年は6.1%であったから多少劣るが、極端に何か変わったわけではない。

細かいぶれは捨象して、引き続き統計が改善トレンドにあると思われるものは、前述の鉱工業生産と、その内訳のうち、電力、粗鋼、自動車、半導体生産である(図3~7)。

底入れできていなかったセメント生産も、この局面で末端が初めて上昇した(図5)。これと関連して、社会融資規模とKOMTRAXが2か月連続で増加し(図21灰線、図25)、設備投資完成額も安定した力強さを示すようになった(図26)。このようにストック面も徐々に解きほぐれ、残るは地価の底入れと言うことになる(図22~23)。

輸出入数量はどちらも前月比でプラス(図17)。特に最高値を更新した輸出数量の回復ぶりは顕著である。普通のドル表示で見ていては分からない世界だろう。そしてその原動力は我々には感知しにくい世界にある(図33)。世界をアメリカが牽引していると言う発想はとうに時代遅れである。

小売消費は、今号からCPIを使って実質表示にした(図11)。9月もプラスとなって、消費が折れているという解釈はしにくくなった。不動産下落の逆資産効果はアメリカ人の発想に過ぎない。

PMIが50を上回ったことぐらいしか、良いニュースがないように思われている今の中国(図15)。だが、このようにフローの改善が続いたことで、ストックの調整も緩和されてきたように見える。中国経済の良い部分が伝わらない、あるいはそもそも伝えようとしないために、幅広い定点観測がますます大切になっていることを読者に訴えたい。