藻谷 俊介

2023年9月16日2 分

月例中国統計ウォッチ 8月分

ほとんど季節調整されていない中国の統計を、春節補正の季節調整ベースで並べて観察するのが月例中国統計ウォッチである。先月号では6月よりも悪くなったグラフが多いことを指摘せざるを得なかったが、8月はその多くが改善した。

フローの改善とストックの調整

8月の鉱工業生産は前月比+0.6%(図1)。年率にすれば7.3%で悪くない伸び率だ。図2が示すリアルタイムの増加率は単月では減ったが、均せば5%前後はあることを示している。

先月、当冊子のグラフには、3つのパターンが見受けられ、その中で本当に悪化しているのは、第2グループ(従来型の政府ファイナンスによる大規模開発、投資などに関連する統計)だけであると述べた。

たまたま7月に下がったのが第1グループだが、それらは8月に反発したものがほとんどであり、もともと悪化していない第3グループと併せて、中国景気の悪化リスクはフロー面からは否定できる状態になったと考えている。世界シリコンサイクルの反転の恩恵も大きいはずだ(図34)。

改めて改善トレンドにあると思われるものは、前述の鉱工業生産と、その内訳のうち、電力、粗鋼、自動車、半導体生産である(図3~7)。例外はセメント生産(図5)であり、これは上で述べた大規模開発に関連しているからだ。

今回から輸出入をドル表示ではなく、数量指数に改めた(図17)。この間の通貨の変動は大きく、特に強いドルで表示すると数値は小さく見えることになる(円や人民元で表示すると数値は大きくなる)。数量表示にすることでインフレも補正でき、特定の通貨の影響も受けなくなる。その結果、輸出入とも下方屈折してはいないことが確認できた。図18はドル表示のままなので、差違を確認いただきたい。計算方法については、いずれ改めてその詳細を説明したい。

消費もある程度反発し、ピークアウトには見えなくなった(図11)。不動産デフレからの類推で、一般物価も弱いイメージがあったが、もはやそうではない(図8~10)。

不動産、設備投資などストック面は底入れ手前ではあるが(図21~26)、そろそろ底が近づいているようにも見える。フローの改善がストック調整を緩和することで、中国経済リスクも拡大方向ではなく、縮小方向に向かっているという認識は持っていて良いのではなかろうか。