藻谷 俊介

2023年8月16日2 分

月例中国統計ウォッチ 7月分

ほとんど季節調整されていない中国の統計を、春節補正の季節調整ベースで並べて観察するのが月例中国統計ウォッチである。先月号では、回復は緩いが報道されるほど深刻な調整ではないと結んだ。7月は6月よりも悪くなったグラフが多いが、それでも報道されるほど深刻ではない点に変わりない。

インフラ系、貿易系は二番底

7月の鉱工業生産は前月比横ばい(図1)。図2が示すリアルタイムの増加率は6%を超えたが、これはぶれであり、加速したわけではない。あくまで図1の通りである。

今月、当冊子の幾多のグラフには、3つの代表的なパターンが見受けられる。

第1は、昨年末のZero Covid政策終了から大きく回復したが、最近になってその一部を失ったもの。自動車生産(図6)、半導体生産(図7)、小売消費(図11)、貨物輸送量(図14)などがその代表例である。グラフによっても異なるが、10上がって、3下がったくらいの調整を示している。

第2は、昨年末から多少回復したが、最近になってそれ以上に低下して、いわゆる二番底を形成しつつあるもの。輸出入(図17)、社会融資規模(図21)、不動産指数(図24)、KOMTRAX(図25)などが、このパターンである。

第3に上述の鉱工業生産もそうだが、電力生産(図3)、自動車販売(図)など改善を続けているグラフもある。

このように見てくると、中国経済を崖っぷちと訴えるメディアの報道は単発切り取り、スポットライト的であり、継続的で定量的な分析が欠けていることが分かる。敢えて問題になるのは、2番目のグループだけであり、そこは従来型の政府ファイナンスによる大規模開発などに関連する部分だ。

もはや財政の優等生ではない近年の中国政府には、そうした従来型の景気刺激政策を維持し続ける意思がないことは明らかであり、また、どうしてもそれに緊急に回帰しなければならないほど1番目や3番目のグループは悪くない。また不振な貿易も、中国だけの現象であるとは言えぬ相互作用である(図30-31)。

従って二番底を示しているグラフが一部にあっても、多少低成長であっても、それは中南海にしてみれば覚悟の上のことであろうと筆者は認識している。