藻谷 俊介

2021年2月25日5 分

変異種の感染力は1.2倍程度と意外に低い可能性

コロナウイルスの新規感染者数が、史上初めて世界的に低下している(図W)。これは昨年末の感染力の高い変異種の登場を考えれば奇異なことに聞こえるせいか、また油断すれば再悪化すると恐れられているせいか、日本ではあまり大声で言う人がいないが、WHOも徐々に認めてきている変化である。微かに感じられるようになったオリンピックへの追い風もその文脈で考えると分かりやすい。

一方で、日本もそうだが各国の接触規制はなかなか緩められない。それは恐らく感染力の高い変異種を意識してのことだろう。震源地のイギリスも図Qのように感染者の見事な減少を実現しているが、英政府はようやく3月8日からの小学校~大学の再開を発表したところで、多くの規制は6月まで残る。

閾値とモデルの見直し

2/10号で予告した通り、データが加わってきたので当座の閾値見直しを行った。ここでの閾値とは、それを上回れば感染者数が増え、下回れば感染者が減るような人間の活動(接触)レベルであり、図1~4に黄線で示したものだ。

足元で図2(イギリス)の青線は次第に底入れの雰囲気になっている。これは赤線が黄線に近づいてきたことの反映と仮定できる。黄線を超えて赤線の上昇が続けば、青線も上昇に転じる。今の状態はその一歩手前か、それを超えつつある状態にあると思われる。そこで黄線を前号から少しだけ動かして、この水準とした。もちろん、今後結果として新規感染者数(青線)がまだ減り続けるなら、閾値(黄線)を更に上げて様子を見ることになるわけだ。

以下は興味のある方のみ。図3~4に関しては2/10号で両線の関係が破綻し、赤線を算出するモデルの見直しが必要になっていたが、その原因が図1~2では行っていない赤線の平滑化にあることは明白だった。しかしそもそも平滑化したのは、1/26号で書いたようにぶれが大きくてそのままでは使えないからである。平滑化せずにぶれを取るために、週末を除き、休日を除き、商業施設を除き、ビジネス地域を除き…と変則要因を削っていくと、行き着くところ平日の交通関係地点(鉄道駅、港湾、タクシー乗り場、レンタカー店など)の人出だけになってしまった。結局、都営地下鉄の図1に似た計り方に落ち着いてしまったわけで、GoogleMobility(GM)の多指標性を活かせたのはイギリスの図2だけになってしまったのである。

同じGMデータを用いてイギリスではうまく行く方法が、なぜ日本ではダメなのか。これは地点の選び方や網羅性の問題だろうと考えている。Googleがやっているのは、測定地点を決めて、その周辺の人出を測定しているだけのことだ。駅や港湾なら明白で、間違いなく特定できるが、ビジネス街、商店街となると、全国の地図上でどの地番がそれに当たるのか判断するのは難しいだろう。一部がかなり恣意的に選ばれていると想像する。データ量を見ると、イギリスは日本の11.5倍もあり、かなり細かく測定していることが分かる。管掌しているのはGoogleの各国の本部だろうが、各国の感染度合いに応じて熱の入れ方に差があるのかも知れない。

日本については都営地下鉄が依然説明性の高い状態を維持している(図1)。これからは図3~4も含めて見ていくが、いずれも青線に下げ止まり感はある。

さて、改めて図1~4を見て見よう。12月以降、黄線にある程度の段差が付いたことで、変異種の存在は明らかである。しかし、段差の付き方は意外に小さいと言えるのではないか。今後の青線の推移次第で、暫定閾値が上がる可能性はまだあるが、今示した水準より下がる可能性はない。特にイギリスは新規感染の99.9%が変異種になっていながら、閾値は-36%から-45%(かそれ以上)までしか変化していない。これから逆算される変異種の感染力は、オリジナル種に対して高くて1.2倍程度である。当初、感染力が最大で1.7倍とか、実効再生産数Rを0.4増やすとか言われていたが、筆者が度々警告したとおり、初期の推計値は誤差が大きい。そもそもこうした数値は大きい方がニュースなので、発見者にも「最大」を付けて大きい数字を打ち出す誘惑がかかる。

もちろん感染力が2割増えたことだけでも問題であるし、以上の推移も結果として分かってきた事であって、最初は警戒が必要だったことは間違いない。とは言え、日本政府は変異種登場で出勤7割削減を打ち出したことなどに対して、早い段階で修正を図るべきである。必要以上に高く、維持困難な目標を掲げ続けると、結局企業は言うことを聞かなくなると思うのだ。

次の問題は自粛疲れと第4波

こうして変異種の脅威は当初思ったよりは小さく、実際に新規感染者数は減っているものの、気になるのは図1~3の赤線が右上がりになっていることだ。いずれも昨秋より一段低い状態を2ヶ月近く維持していることは立派だと言える。だがかなりの忍耐であり、人々も耐えられなくなってじわじわ活動を元に戻し始めているのであろう。しかし、変異種の能力を見極めるために自粛に一旦休みを入れるタイミングも失ってしまった日英などの政府としては、今さら解除すれば赤線が閾値を超えて第4波になるリスクがあり、動きが取りにくい。待つほどに難しくなってしまったのである。

日本では関東以外では新規感染者数の低下が続き、知事たちも緊急事態の解除を求め始めている。確かに全国平均である図4の赤線は横ばっており、すぐに閾値を超える状態にはない。だが赤線と黄線の距離はさほどないと考えられるから、解除すればまた半月ほどで青線が増加に転じると筆者は想定している。呼ぶ呼ばないは別として、それはもう第4波である。