藻谷 俊介

2022年2月3日3 分

上もあまり望めないが、下にはまだ早い?

年初の「新春望見」で筆者は、世界景気は再び循環的回復局面に入ったばかりだが、世界の中央銀行は単に消費者物価インフレを抑制する以上の心づもりで金融引き締めに臨むので、投資家、経営者、中央銀行、誰にとっても判断の難しい一年だろうと述べた。これを相場に落とし込むのは筆者の領域ではないが、相場のイメージをまったく欠いていては、エコノミストとしても仕事がしづらい。そのために筆者はモデル週報においてG17株価指数を計算しており(図C)、時折このマクロ週報でも報告している。

対数表記された図Cには、年率6.5%勾配の線が3本引いてあり、経験上は①~②の間で株価は波動するが、時折③、すなわちショックに相当するレベルまで下がることがある。その勾配線を横に倒して、波動だけを取りだしたのが左の図Aである。便宜上、①線を10合目(山頂)、②線を0合目(登山口)と称してある。

10合目に貼り付いた時は...

図Aの昨年部分を見ると、後半は10合目の線に貼り付いて動かなくなっている(むろん実際の株価は図Cのように貼り付いたまま年率6.5%で上昇している)。こうした状態に近かったのが2010~11年の部分だ。そして両者に共通するのが、その前にショックレベル③までの深い谷があることである(リーマンショックとコロナショック)。言い換えれば、非常に激甚なショックがあっても、株価は1年ほどですんなり10合目近辺まで戻ってしまい、そこで行き場を失うのである。昨年もそうだったように、谷深ければ山高し、と期待する人は多いが、株価上昇そのものが前倒し気味なので、それ以上の先取りには結びつかないようだ。

10合目に貼り付いた後、2010~11年の場合は、ギリシャに端を発した欧州債務危機で2010年の年央に一旦5合目まで下がるが、その後10合目に復帰する。南欧の債務危機は、騒がれたほど世界経済を悪化させなかったのである。そして2011年、景気の本当の悪化に合わせて登山口に向けた本当の下山が始まってしまう。この辺は、世界経済の景気波動を示した図Bと対比させながら見て頂くと分かりやすい。やはり株価の大きな波動を決定するのは景気だと言える。

このように2009~11年と、2020~22年を対比させると、3年目の今年は神経質にならざるを得ないが、まずは図Aで今、8.2合目に下がってきた流れが0合目までの流れとなるかどうかを検討する必要がある。図Bも6合目まで下がっているので、景気悪化を伴っているように見えるが、昨年から述べているように、足元の世界貿易、世界生産はむしろ回復傾向にある。名称に反してOECD先行指数は先行して転換せず、後になって遡及して転換する「遅行指数」なので、図Bは事後確認には使えるが先読み的には使えない。従って、 図A~Bは再び上昇して10合目方向に戻ると筆者は想定する。

とは言え、その先は分からない。各国の統計やG17統計が示す世界景気が再び不況方向へ動き出した時に図Aが下がるなら、その時は①から②への移動が始まったと覚悟すべきと言える。もちろん以上は世界全体としての流れであり、国毎にタイミングや位置が異なることは承知頂きたい。

最後にコロナに関するその後の状況も述べておこう。先週のモデル週報で一部読者に示したように、人流の減少が続いて新規感染者数の伸び率の減少が明確になり、世界平均にすらも遅れたものの、日本もようやくピークアウトが視野に入っている。今の伸び率の伸び率を前提にすると、2/4~11の間で一旦はピークアウトする公算が高い。