藻谷 俊介

2020年9月5日3 分

コロナ拾遺 8

定点観測の重要性

7/27号および8/19号で予測してきたとおり、コロナ第二波は8月中に東京そして全国でフラット化を達成した(図2)。全国の新規感染者数は8/24から連続して1,000人を割っており、これも前号で予測した通りである。世界的に見ても第二波の収束はほぼ固まりつつあり、表Aではすべての国で10倍になる日数が100日以上になっている。年初の感染拡大以来、初めてのことである。

筆者のように畑違いの人間が、第一波、第二波それぞれの収束時期をどちらもほぼ的確に当てられたのは、毎日感染データなどの更新を続けた「定点観測」のおかげである。数字の中から現実のルールを見つけ出すことは、教科書で原理を先に勉強した専門家には却って難しいのだろう。エコノミストもそうだが、原理を定性的に理解していても、定量的に正しい結論が得られるとは限らない。定量の部分はあくまで現実のデータの時系列的な観察から得るしかないと言うのが筆者の認識である。多少手前味噌になったが、当面は図表の更新を続けたい。

日本は致死率が低い、はいつの話か

自民総裁選候補者の安倍政権の路線を継承する、と言う表現が気にかかる。2013年こそ景気の改善があったものの、それ以降は鳴かず飛ばずが続いた経済指標や、コロナ対応のまずさを見ても、継承が無難な選択だという認識が共有できない。

日本のコロナ対策については、いまだに「こんなに死者の少ない国は珍しい」という自画自賛を目にする。専門家の定量分析が、死者は最大40万人などと予測していた時期からみれば、確かに1349人(表A)は少ないかも知れない。しかし、韓国333人、シンガポール27人、台湾7人と比べたらまったく多いのである。しかも実数ではたった4桁でも、果たして致死率はどうなのか。6/4号でも述べたが、ここには大声では言えないほどの闇がある。

図1をご覧頂きたい。読者の多くは、日本の致死率は2%程度で安定していると思われているのではないだろうか。実際の致死率は、感染者数と死者数の山がずれることにより、大きく変動するのである。実は日本の致死率の方が概してインドより高く、ブラジルよりも高い時期があったことは、定点観測していないと分からない。日本のピーク致死率5.3%は、第一波が終わった時点での致死率である。その後、下がったように見えるのは、第一波より大きかった第二波によって分母の感染者数が急増したためだ。ここから死者数が遅れて高い時期が続き、逆に感染者数は減っていくから、既に赤線の末端がそうであるように、致死率は再び上昇していく。日本の致死率は威張れるほど低くないのだ。

感染者数と死者数は別個に集計されているわけではない。感染発覚→入院・療養→退院・死亡という形で継続的に追跡されている。第一波収束時の致死率5.3%は、実際に治療に失敗した比率である。それがインドよりも高いのだ。