藻谷 俊介

2020年6月22日7 分

コロナ拾遺 4

先進国で第二波的な増勢が見られているばかりか、残る大国インド、ブラジルも一旦は達成が視野に入ったフラット化から再び遠ざかり始めた。だが世界の政治家たちは、不人気な接触抑制政策に戻ることをもはや考えたくはないだろう。経済を止めないつもりなら、検査と追跡によって感染爆発が防げるかどうかが鍵になる。そのことを日本政府が心底から理解したことを願う。

COCOAをインストールしかけて止めた話

COCOAとはCOVID-19 Contact-Confirming Applicationの略で、厚生労働省がようやく公開した日本版追跡アプリである。6/19にリリースされ、22日17:00現在で約326万件ダウンロードされたと言う。1人1件として人口の2.5%だ。

感染者を追跡したり、リスクを知らせたりするアプリが導入されたのは韓国が最初で2/11のことだった。4ヶ月以上前のことである。翌月3/20にはシンガポールがアプリを公開した。この2つの系統はアプローチがまったく違う。

韓国のCorona 100mはいわば集中型で、匿名にして公開されている政府の患者情報を利用するアプリである。感染者は入院ないし自宅謹慎がルールなのはどこの国も同じだが、韓国ではもし違反して出歩いた場合(GPSバンドで追跡)、訪れて一定時間滞在しているような場所が公開される(9日間)。アプリではそのような場所に100mまで近づいたら警告がでるような形になっている。ほぼリアルタイムで危険を知らせるので未感染者にはありがたいが、感染者のプライバシーや滞在場所の風評には悪影響が出る可能性がある。

シンガポールのTraceTogetherはいわば分散型で、GPSも使わない。アプリを導入している者同士が接近するとBluetoothで認識し合い、2メートル以内に30分以上いた場合に相互に相手の記録が残る。ただ残るのは暗号化されたIDのみであり、ユーザーは見ることもできない。後日、ある人が自分が感染したと分かったら、アプリで感染したことを申告する(自由意志)。その人のIDがサーバーから他のユーザーに通知され、もし自分のスマホにそのIDとの接触記録があれば、あなたは感染者と濃厚接触したので、必要な対処をしてくださいと指示される。韓国型と違って、事後的な通知なので感染していたとしたら間に合わないのだが、プライバシーが侵されることはないし、政府はIDのプロパゲーション以外は関与していない形である。誰も傷つけません、が身上だ。

日本のCOCOAは、このシンガポール型(オープンソース)の派生品であり、オーストラリアやドイツのアプリとは兄弟にあたる。Bluetoothでの異種間通信にAppleとGoogleが共同開発した新しいAPIが使われている。また濃厚接触の基準は、シンガポールと違って、1メートル以内に15分となっている。しかし筆者は、検討の末、このアプリを自分のスマホには当面は入れないことにした。

まず、第一に表面的なプライバシー保護という形式にこだわってはいるものの、1メートル以内に15分以上一緒にいた人物と言うことなら、振り返って「コロナ持ちはあの人かな?」と想像が付いてしまう。予防にならないのに、後々知人の顔を思い浮かべ、そんな余計で正確とも言えない邪推はしたくない。

第二に、一人からでも使える韓国型と違って、分散型はたくさんの人がインストールしないと意味がない。オーストラリアは国民の4割が導入することを目標としていたようだが、シンガポール、オーストラリア共に25%程度で止まっている。もちろん数%では効果がない。「COCOAインストールは国民の責務」というキャンペーンが始まるのだろうか。それも願い下げである。

第三に、フットプリントが異常に大きい。実際、筆者は試しに導入しようとして、そこに気づいて止めた。ファイルサイズが84MBもあるのだ。Bluetoothで通信し、時間を計測してIDを保存し、感染者のIDを受け取って照合するだけのアプリなら、数MBで書けるだろう。オーストラリアのCOVIDSafeは11MBである。もちろん今時のスマホなら84MBで動作が苦しくなるようなことはない。だがそれが日本の稚拙なコーディングの結果だとしても不安だし、実は隠された機能が色々眠っているのなら尚更困りものだ。と言うことで当面は様子見するつもりなのである(ファイルサイズはGoogle Play調べ)。

新しく7日間検査陽性率を表Aに加えた

冒頭で述べたように感染者数が再び増加しているので、検査追跡体制の拡充はますます重要になっている。表Aでは、①100万人あたりの検査数と②感染者あたりの検査数(検査陽性率、TPR)の2つから「検査の過不足」を判断してきた。これまで書いてきたことの反復となるが、日本は3/24までオリンピック開催にこだわったことや、検査能力の欠如(キット不足、人材不足や保健所の検査権益保護)などから検査数が伸びなかった。表Aの全期間累計で41万件という数字は、アメリカの1日の検査数(50万件超)より小さいのである。

ただ、感染者数がまだ比較的少ない現況と、検査能力が徐々に増えてきた効果の2つによって、足元の検査は必ずしも少ないとは言えなくなっている。それを表すのが足元(最近7日間)だけで計算した検査陽性率(7d TPR)である。文中では触れたことがあったが、これを表Aに常時掲載することにした。黄色く影を付けた部分だ。左横のTPRで見ると過去の検査の少なさが足を引っ張るが、ここからの検査、追跡能力を見るなら7d TPRの方が適当である。日本が今1.1%と言うことは、1人の感染者に対して、周辺の約90人(1÷0.011-1)を検査をしていることを意味し、まずまずである。かつてはこれが約10人(東京では1.7人)だったので、討ち漏らしが発生しやすかったのだ(今のインドと同程度)。

ただ、余裕はない。感染者が増えるにつれ、低い7d TPRを維持して、感染者の早期発見をするのは難しくなるからだ。難しくなると、ますます感染者は増えやすい。ウイルス禍にあるのは悪循環か、好循環かであって、安定的平衡状態はないのである。5/22号のコロナ拾遺2で書いたように、その境界は1日あたりざっくり300~400人の新規感染者までというところではないかと考える。

第二波の可能性?

メディアの表現は、今も第二波の「可能性」であったり「備え」であったりする。しかし、図Dが示すように、第二波はもう始まっている。自粛解除の影響は日本、そして世界で確実にグラフに表れており、問題は第二波が来るか来ないか、いつ来るかではなく、上述のように一日何人までなら今の検査態勢で許容できるか、なのである。だが、そう言った緊張感はまだ報道に感じられない。

なぜだろうと考えると、やはり新聞テレビのグラフ類が、いまだに線形縦軸で描かれているからだろう。図Eは、図Dの縦軸を対数軸から線形軸に書き換えただけでまったく同じものなのだが、図Eだと人間の視覚は第二波を認識できなくなるのだ。10だったものが700になり、また10に戻るというような劇的な変化をする場合、700まで拡大してしまった線形軸では、10が50に5倍になってもほとんど増えたように見えない。だからこそ対数軸が必要なのである。

と言うことで、最初から対数軸表記している図F~Pを見て頂くと、主要国での最近の新規発生者数はいずれも明らかに坂道を上り始めている。日韓中豪、そして欧州の主要国の第二波は谷があるので明白。イランは第二波も終えて、今は第三波だろうか(図L)。十分に低下しないまま上昇するアメリカ(図M)、一度も下がらないまま上昇の勢いを増すインド(図N)、ブラジル(図P)でも、同じように第二波が始まっている。これら3国はいずれも人口面で大国であるだけに、WHOとしては警戒しないわけに行かない。いま世界の数値が再び悪化しているのは何と言っても先進国や新興大国のせいであって、アフリカの小さな国々が遅れて悪化しているからではないのだ。

どこから危ない(感染爆発する)のかは国によっても違うが、その危ないラインを超えないように可能な限り検査をしっかりやって、それでも突破されたら接触抑制を導入するというあるべき道筋は、一回目と同じである。ウイルスが夏場に弱いとしても、人間の接触頻度が増えれば実効再生産数はその分増える。成功する国、失敗する国は第一波と異なるかも知れない。どちらにしても失敗から学ばない政府は国民に見限られるだろう。

我々としては世論に流されず観察に徹するしかなく、ともかくこの冊子のグラフから当面は目を離すことができない。筆者も毎朝COVID関連データを手動で更新する作業に嫌気がさしており、できればもう終わりにしたいのだが、残念ながらまだその時ではないようだ。

  • 福島の時もモニタリングポストの放射線量を毎日手入力していたことを思い出す。あの時も段々と嫌気がさしていたのだが、ある日東電がモニタリングポスト周辺だけを除染するという暴挙に出て、データの連続性が失われ、更新も突如無意味となった。