藻谷 俊介

2021年4月15日4 分

コロナ拾遺 19

前号から1ヶ月近く経ってしまったことをお詫びするが、前号で述べてしまったことから特に変更はない。ワクチン接種率の高い国は国民の活動レベルを徐々に上げて行けるが、逆に日本のように接種率が小さい国は変異種の拡大に合わせて活動レベルを下げないことには感染拡大を抑えることができない。

それでもワクチン遅れに関する批判報道が少ない

1ヶ月経ったのに、日本のワクチン報道は依然として①接種が始まります、始まりましたという現場中継か、②海外では血栓などの問題発生という誹謗報道かのどちらかである。だが、必要なのは「ワクチンの効果は期待できるのに、日本はまったく遅れている」ことの報道だ。事実を示し政府に圧力をかけて対応を促すのがメディアの役割ではないか。その上で①や②を報道するのならもちろん構わないが、肝心なところが抜けている。

血栓は確かに問題だが0.00008(J&J)~0.0003(AZ)%程度の発生確率であり、現在では発生した場合の対処方法も分かっているので致死性はない。利益と損失を比較した場合に、どこの国もそれで接種を止めるという結論にはならないことは明らかである。こうしてワクチンの期待値を下げる報道を繰り返すことは、いわば未来への期待値を下げることであり、日本人の精神衛生上も投資活動上も問題が多いのではなかろうか。

図1はイースター、図2は過越の祭によって、赤線(活動レベル)がV字に低下している。昨年は第1波の自粛と重なって見えなくなっていた大型連休である。青線(新規感染者数)は低下するペースが多少鈍くなっているが、それでも低下傾向にあるだけで日本とは大きく異なっている。後述するように、これらの国の動きはますます重要になっている。

日本の酷な夏

一方、日本(図3~4)はワクチンがないまま変異種が拡大し、黄線(閾値)が低下している。そのため昨年ならまず十分な自粛とみなされた活動水準にあるにもかかわらず、感染者は急増している。黄線に対する赤線の相対的位置が高すぎるわけだ。しかも図3~4において黄線を上げるにはワクチンしかなく、赤線を下げるには昨春並みの行動抑制(自粛警察による相互監視も含む)しかないため、実質的にお手上げの状態だ。単にオリンピックが難しくなるというだけの話ではなく、着実に新規感染者数が増え続け、最高記録も更新され続ける酷な夏になってしまうと思われる。ただ、こうした現実を図3~4で数量的に把握できていれば、どこまで怖れるべきかも分かる。例えば図3において、赤線と黄線は離れているが少なくとも寄っていく方向にあり、それは感染爆発を防ぐ方向に作用するはずだ。実際に、図Bにおける当社の短期予測(灰点線)は若干とは言え上に凸であり、減速している。つまり新規感染者数の数字は毎日増え続けると思われるが、1...1.2...1.44...1.73のように爆発的に増えるわけではない。この辺のニュアンスを読者にはお伝えしておきたい。

接種が増えた国の次なる課題

接種の先頭集団にいるイギリスとイスラエルに関しては、次のチャレンジはワクチンを拒んでいる人たちの説得である。イスラエルは接種率が55%、イギリスは45%を超えたあたりから、接種率の直線的な伸びがなくなり、伸び悩むようになった。アメリカは現在37%程度で、まだ直線的に伸びている。ただ、どこの国でもワクチンを早く打ちたいと思っている人が一巡すると、ブレーキが掛かり始める可能性が高い。

前号までは、接種率を総接種数÷人口で簡易計算していたが、今回から1回ないし2回受けた人の合計を人口で割ったもので考える。

筆者は天然痘におけるような集団免疫達成(地球上からのCOVID-19の消滅)には現実性を感じておらず、図1などにおいて赤線が0%に向けて上昇して行けるならば、青線が完全にゼロにならなくても仕方ないと思っている。つまりインフルエンザ的な状況だ。インフルエンザもワクチンを打つ人と打たない人がいる。そのバランスの中で、ほどほどの感染が続いている。COVID-19において何%の接種率が「受け入れられるバランス」を生むのかはまだ分からない。引き続き先頭集団の動きを追っていくことにしたい。