藻谷 俊介

2020年12月25日3 分

コロナ拾遺 16

変異種騒動

ロンドンを含む南イングランドで勢いを増す感染で、図Qはしばらく前から第2.5波的な上昇を見せているが、感染性の高い変異種がその原因であると言う見解が広がっているのはご承知の通りである。筆者もニュース記事だけでは判断の下しようがなかったが、未査読ながら23日付けでロンドン大学衛生熱帯医学大学院から学術論文が発表されたので早速入手した。

感染の勢いが増していることに対して、論文は4つの可能性を提起。順に①変異による感染力の上昇、②(初期ピークからある程度時間が経過しての)免疫喪失、③子供への感染性の増加、④感染から発症までの時間の短縮で、それぞれを変数化してモデル計算した結果、①>②>④>③の順に説明性が高くなった。結論は、現在最上位のTier 4に学校閉鎖を加えた、最大限の管制を敷くべきと言う強い口調になっている。

感染力は従来種平均より56%高いと試算。既に感染力7割アップとか、Rを0.4引き上げると言った数字も出回っているが、こうした数字は一般人には解釈不能であるばかりか、一人歩きして様々な問題を引き起こす。感染初期の数値は現場の混乱により確証性の低い少数のデータで計算するので、正確でないことが多いのだ。初期の感染爆発時に計算された高いR0を根拠に、8割おじさんが必要以上に自粛を強いたことは記憶に新しい。

今のところ根拠はこのような統計ベースのものであり、研究室で実際の細胞を使って感染性増加が確認されたわけではない。しかし、変異種に罹った患者のviral load(細胞内のウイルス量)が高めであると言う報告もあり、ゲノム分析で確認されている突起部のN501Yと言う変異によって、細胞に侵入する能力が高まっていると言う推測は成り立ちうる。注意はした方がいい。

今回の変異種騒動で、いまさら突然変異の不安を煽るメディアもあるが、変異は今に始まったことではない。変異の如何にかかわらず、市民がなすべきは感染者数を見ながら行動を増減することであり、それはこのニュース以前も以降も同じである。以前もウイルスが日々如何に変異し続けているか説明したことがあるが、今回はGISAIDの元データを見やすく表示するNextstrainのサービスを使って図示したものを次頁に示した。これは横軸に日時、縦軸に変異回数をとって、既に見つかっているウイルス変異種の発展経路を示したバージョンである。今、話題になっているのは右上のエリアで、イギリスの変異種(黄)と、その近縁で南アフリカで発生した変異種(緑)の系統がある。

日本には入っていないのか

この変異種の最初のバージョンは9月20日にイギリスで発見されており、毎日イギリスから平均150人の入国者がある現状を考えれば、日本に既に入っている可能性は十分にある。今ニュースになっている24日入国の30代男性だけの話ではない。問題は日本にはゲノム分析(シークエンス)をする機関が数少ないことで、つまり入っているかいないか分からないだけである。ついでに言えば、これから日本で起こる変異で、世界を脅かすものが出てくる可能性もある。無意味な英国忌避は止めて、別に震え上がることもなく、国内で確認された場合の対策を考えておくべきだろう。

東京はまだ厳しいが、あと一息

最後に当冊子グラフを定点観測する。10頁に新たに加えた平滑化グラフで見ると、東京以外(図AM)はピークアウトらしい線形。東京(図AL)も含めた全国(図AK)は、まだ微増傾向だが減速はしている(図B)。都営地下鉄乗車率(図W)が16日にほぼ閾値まで低下したこともあり、年末までにはピークアウトすることになると思う(ただし図ALが踊り場後に再上昇した原因が万一変異種にあったのであれば、図Wはもっと下がる必要がある)。とまれ図AK~AMは感染爆発的勾配ではなく、東京のベッド数ももはや安定している(図AJ)。