藻谷 俊介

2021年11月25日3 分

なぜ中国統計ウォッチを出し続けるのか

先週号を発行した後で、新しい読者から尋ねられた。なぜ筆者は月に一回ものペースで「中国統計ウォッチ」を発行しているのかと。なるほど読者の中には、世界が断絶したように見えるこのコロナ時代において、なぜ筆者が中国にこだわり続けているのか訝しく思う人もあるだろう。トランプ政権以降のデカップリング(中国を経済的に切り離す)政策によって、中国を観察する意味が以前より低下しているはずと考え始める人もいるはずだ。

確かにここ数年で中国はかなり遠くなった。少なくとも報道の世界ではそんな印象を受ける。しかし現実の世界経済は、政治的に容易に切ったり繋げたりできるものではなく、重層的に絡み合った糸玉のようなものだ。統計を見ていると、多少の寸断はあっても、経済的な連関は概ねその形を残していると筆者は痛感する。近年は中国が最初に変化し、他の国がそれに追随していくパターンが定着し、それは今も変わっていない。

図AはOECD先行指数と呼ばれる景気波動指数である。OECDが主要国それぞれから10前後の経済指標を選んで合成し、趨勢を除去して「景気の波」だけを抽出したものだ。先行指数という名称だが景気先行性はほとんどなく、後の遡及改定で山や谷が出てくるため先読みには使えないが、各国の景気の波を一堂に比較できるのがこの指数の長所である。

図A、あるいはその主要部を拡大した図Bが示すとおり、今回のコロナ禍以降の波動においても、中国が先行し、日米が追随していることは明らかである。購買力平価ベースのGDP(経済規模)では米国を大きく凌いで世界第1位である中国は、言わば経済の数量規模で世界一なのであり、既にそこまでの駆動力を有していると認めざるを得ない。筆者が中国に注目するのは、現在の景気低迷から脱出するのも、図Bが示すように早々と年初からもたついていた中国が最初になるだろうと予期するからである。

逆に言えば、「米国統計ウォッチ」を筆者が発行しない理由もそこにある。米国経済は図Bによれば遅行指標だ。米国景気はまだ強い、と言う分析から未来は出てこないのである。もちろんすべて季節調整済の米国統計については、筆者が季節調整せずとも多くのグラフが存在していることもある。十分客観的かはともかく、既にたくさんある米国リサーチに対して筆者が価値を付加できるタイミングは限られる。

以上のような説明をしたのは今回が最初ではないが、新しい読者が増えるにつれ、時々はこのように解説する必要があると思った次第である。

中国経済については、調整期間も1年に近づき、先週号で述べたようにそろそろ調整の出口ではないかと考えている。図B赤線で言えば、もう上がらないものの、下がるに下がらない(悪循環ではない)のは、これがいわゆる不況ではないことを示唆している。もちろん、上方向に期待できる部分も少ないわけだが、調整後には単に一息つくだけか、それとも過熱してしまうのか、またその時には様々な可能性を考えなくてはなるまい。