藻谷 俊介

2020年4月3日5 分

4月中が目途か…

最終更新: 2021年5月14日

志村けんの死去が起爆剤になったのか、SNSなどで回ってくる「頑張ろう」、「こうしよう」、「これはするな」発言が格段に増え、緊迫した、威圧感の強いものになってきた。空気の変化が読めず、お作法を守らない者は、容赦なく非難の言葉を浴びせられる。「非国民」が登場した戦時下のような雰囲気である。

少し先を考えるのが仕事の筆者には、それらは遅行指標にしか思えない。図Aの進展と、筆者がずっと待っていた治療法への関心のシフトが、徐々にこの病禍の収束の目途を示すようになったと考えているからである。新規感染者数のピークアウトが前提と言われていた相場の反転も、そうなる前に実現したことが、感染者数オンリーの相場ではなくなった可能性を示唆している。

図Aの多くの線は、中国、韓国の後を追って、S字型終盤の横ばいに向かっているように見える。この抑制の原因を特定するのが今は難しいことを3/25号で述べたが、少なくとも現象的にはそうなっており、中国が経済活動を再開させた後も感染者数の再爆発は見られていない(図B)。4月10日にはいよいよ武漢の閉鎖も解除される。そこからの感染者数の変化を確認する必要はあるが、もし目立って増えないなら、経済活動とこの病禍の両立の目途が立つ。

さて、図Aにおける欧米各国の線が減速していることは、見ても分かる。これは対数チャートなので、同じ勢いで伸び続けるものは直線になる。「上に凸」な線は、減速しているのである。筆者は直感の湧かないパーセントではなく、累計感染者数が10倍になる(1桁増える)日数で伸び率を見ている。図Aの伊西独仏米英の6ヶ国は、いずれも一度はそれが5~6日というところまで加速した。つまり、5日で10倍、10日で100倍、15日で1,000倍という猛烈な勢いである。これに驚愕しない政府などあるはずもなく、大々的で強硬な防疫政策(外出禁止、店舗閉鎖)や経済対策が打ち出された。しかし、現在は10倍になる日数が、イタリアで53日、スペインで26日、後発の英米でも17日まで伸びた(今朝時点)。

いずれも直近4日間を指数近似して計算。当然こうした数字は日々データを入れる度にある程度は揺れるが、趨勢としては着実に長くなってきている。

イタリアはあと7日ほど、アメリカも23日ほどでフラットに

実際データを分析していると、二階微分したところで、式はほぼ定数になる。それを所与と考えて逆算すると、あと何日ほどで伸びが「ほぼフラット」になるかが計算できるのだ。10倍になるのに100日かかる状態をほぼフラットと定義すると、イタリアはあと7日ほど、アメリカもあと23日ほどで、その状態に到達する。つまり4月中に図Aの欧米の線は凡そ横ばいになると思われる。そして恐らく4月中にレムデシビルが承認薬になるとの観測も考え合わせると、1ヶ月後にはそれなりに落ち着いた雰囲気になっているのではないか。

もちろん現場では血のにじむような努力が続けられ、疲労が重くのしかかっているし、まだ運び込まれる患者は増えているのだから、気を抜くことなど許されない。医療関係者への讃辞を、筆者は忘れず書いてきたつもりである。SNSも当面はますますかまびすしいだろう。しかし、このペースが維持されるなら、遠からず目途は立ってくるとも言えるのである。日本政府は「あと2週間が目途」を繰り返して今日に至っているが、それは特に根拠なく、切りが良い数字だったからである。筆者の計算は疫学モデルとしては恐らく一番プリミティブなものだが、それでもここまでの数字に依拠している点が違う。

日本、台湾、シンガポールはどうなるか

アウトブレイクを経てフラットに向かう中韓と欧米は、それで一つのグループを成すが、「ゆっくりじわじわ時間稼ぎ路線」のアジア諸国、すなわち日本、台湾、シンガポールの未来はどうだろうか。図Aにおけるざっくりした医療崩壊ライン(100万人あたり感染者数≒200人)との関係がポイントになる。

筆者はこれらの国では、アウトブレイクさえ防げれば、勝算があると考えている。100万人あたり感染者数が19人の日本の場合、図Aではまだ医療崩壊を心配するレベルではない。軽症者まで病院で隔離している贅沢を止めて、欧米のように重症者だけにすればベッドの空きは当面十分にあり、それは遠からずそうせざるを得ないだろう。ただし東京は3月下旬にアウトブレイクの一歩手前まで行っており(図C)、再発しないように注意するする必要がある。

また100万人あたり感染者数が175人のシンガポールは、単純に考えればそろそろ医療崩壊水準であるが、起算日から65日も経っていることで、初期の感染者はその大半が治癒ないし死亡しているため、実効感染者数は100万人あたり130人である。3月25日に同国のガン保健相は、まだ医療キャパシティは十分にあると述べている。つまり、図Aにおける医療崩壊ラインは最初の20日ほどで感染者が急増した場合の目安であり、時間が経過しグラフの右に行くほど該当しなくなる。今回から線を短くしたのはそのためである。

政治家たち

政治家が国民に自宅待機やソーシャル・ディスタンシングを要求する場合には、やはり期限が念頭にないといけない。世界の政治家には「4月末まで」を言う人が増えている。以上のような理由で筆者も賛成である。そこで危ういながらも世界の人々は一息つくことになりそうである。

トランプは最大20万人の死者も、とバーを引き上げている。しかし、4月中にフラットになれば恐らくそこまで行かない。彼一流の交渉術の発露であり、少なく終わったら自分の手柄にする魂胆であろう。

なお、累積感染者数の線がフラットになる前に、新規感染者数はピークアウトすると予想される。イタリアは既にそうなっている。それもシグナルである。また、4月中にフラットになるのは主要欧米諸国の線であり、世界全体の線がフラットになるのは、筆者の計算では今から約54日後、5月下旬の予想となっている。