汨羅

2020年7月5日2 分

編集余録

最終更新: 2023年7月18日

ラジオを聞いていたら、あるDJが「さてこのソーシャル・ディスタンス。同僚DJのマークによると、もとが動詞なのでソーシャル・ディスタンシングと言わなくてはならないそうなのですが、私にはその意味がよく分かりませんでした。英語は難しいですね…」と話しているのを耳にした。私もかねがねこのことで周囲に不満を漏らしていたので、このマークの言葉にほっとした。名詞のdistanceは「距離」であり、動詞のdistanceは「離す、距離をおく」の意味だ。距離は測るものであり、近くても遠くてもいい。10センチでも、3メートルでも距離は距離なのだ。動詞として使って、それにingを付けて名詞にすることで初めて「距離をおくこと」と言う意味が出てくる。だからこのingは取ってはいけないのである。4月頃まではNHKもソーシャル・ディスタンシングと正しく発声していたのだが、いつのまにかingが落ちて、その形で定着してしまっている。別にingを付けて動名詞にしなくても意味は変わらないだろうと思ったのかも知れないが、どうして辞書を引かなかったのか。ソーシャル・ディスタンス social distance は、異なる人種間などの社会的距離感を指す言葉であり、2メートルとか、3メートルとか計れるものではない。例えば、白人とアジア人のソーシャル・ディスタンスは近いが、白人と黒人のそれは遠い、と言った風に使われる。情報の得にくい明治の昔なら仕方ないが、21世紀になっても誤用和製英語が作られることにはがっかりしてしまう。分かりにくいカタカナ語を無理に使うなら、せいぜい正しく使って欲しいものである。