藻谷 俊介

2020年9月7日2 分

7月の統計を概観して

早くも一服

先月号では、もはや景気を悲観すべきタイミングではないが、楽観が報われるにはもっとスピードが必要だ、と述べた。残念ながら、7月は早くも一服感が出ている統計があり、まさにスピードに問題ありと言う展開になっている。

鉱工業生産の増加傾向はしっかりしている(図A)。計画からも外れなくなった(図B)。だが、先月号でも述べたように、世界対比で遅い。7月の世界鉱工業生産は谷から9割戻して、コロナ以前の水準まであと一歩であるが、日本は7月では2.5割戻し。9月まで見越しても谷から5割戻しがせいぜいだ(図A赤線)。遅すぎるのである。まだ完全にコロナモードから抜け出せていない。相場系と鉱工業生産系の系列を除いたビジネスサイクルにおいても、谷からの戻しは2-3割である(図E)。

更に悪いことに、特別給付金の一過性の効果は7月に入って剥落してきている。6月に一度はコロナ前の水準を回復した消費支出は、せっかくの上昇の4割を失った(図F)。賃金はもう減ってはいないが(図L)、その回復にも生産と同じくスピード感はないので、コロナ給付金の効果剥落が効いてしまう。

外需も取り切れていない。輸入が弱いので、赤字(輸出-輸入)はかなり改善しているように見えるが(図P赤線)、輸出だけを見ると、世界の回復をほとんど取れていないのは明らかである(図N赤線)。内需+外需がこのような状態なので、図Aが大きく戻れず、賃金も大きく戻れないのである。

ただし、これはメディアが伝えるような不況とは言えない。図Aや図Eが谷を越えている以上、もう不況ではないのである。現状は戻りが弱い「コロナ不振」だ。リーマンショックよりも厳しいかのようなネガティブ・キャンペーンは、国民の心理を悪化させるだけの不当行為である。コロナを克服する防疫体勢を、政府が提供できていない点だけを執拗に批判するべきなのである。